「上陸拒否=上陸の申請に対する拒否処分」であるわけですが、まさに申請者(=入国審査官に上陸を拒否された外国人)にとっては、不利益な処分です。
行政関連法の一般・通則法たる行政手続法は、「不利益処分」を、
行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を菓し、又はその権利を制限する処分。
と定義しています。
行政書士のコア業務である許認可申請業務において、許認可等の取り消しや、資格・地位を直接にはく奪するといった不利益処分がなされようとしている場面では、聴聞という手続きを経て処分が決定されます(聴聞において行政書士は代理人となることができます)。
上陸拒否という不利益処分がなされる場面で同様・類似の手続きはあるのでしょうか。入管法第10条には、「口頭審理」という手続きが設けられています。
手続きのスタート/手続きの内容(登場人物とその権利)/手続きのゴールに分けてご紹介します(以下、「聴聞」を(般)、「口頭審理」を(特)とします)。
手続きのスタート
1.不利益処分の原因
(般)不利益処分
(特)個人識別情報の提出義務の未履行 or 上陸条件未適合
2.被処分者への通知
(般)あり(期日指定あり)
(特)なし(入国審査官からの外国人の引渡し後、"速やかに"口頭審理を実施)
登場人物とその権利
行政手続法の「聴聞」と入管法の「口頭審理」を比較してみましょう。
*画像が小さめになってしまったので、新規にタブを開いてみてください。
「聴聞」では、青チーム(処分庁側)と赤チーム(国民側)との間に、主宰者が入る形となっているのに対し、「口頭審理」では、青チームと赤チームとの関係が、"三者構造"になっていません。
主な違いとしては、
・特別審理官=主宰者+行政庁の職員。入国審査官は登場しない、
・口頭審理では、外国人への通知がなく、身柄の引渡し後に実施される(時間的制約)、
・口頭審理で、代理人が出来ることは、証拠提出と証人尋問に限定
等といったところでしょうか。
手続きのゴール
(般)行政処分の決定
(特)不利益処分の原因が、「個人識別情報の提供拒否」であるケースでは、
外国人が個人識別情報提供義務を履行→上陸許可の証印がなされ、在留資格と在留期間が決定される。
外国人が個人識別情報の提供を尚も拒否→退去命令が出されます。
(特)不利益処分の原因が上陸条件の未充足であるケースでは、
上陸条件に適合してると認定→上陸許可の証印がなされ、在留資格と在留期間が決定される。
上陸条件に適合していないと認定→法務大臣に対し異議の申し出をできる旨を教示→異議の申し出がない場合は退去命令が出される。
ここまでです。
不利益処分の原因が、個人識別情報の未提供であるならまだしも、入国審査官による入国審査段階で上陸条件未充足を指摘され、口頭審理にまわされた場合、上陸が認められることはないと考えて間違いありません。
被招聘外国人が来日する前の準備として、
・在留資格認定証明書交付申請の際に提出した書類一式のコピーをもって上陸審査に臨んでもらう。
・出入国港には、招聘機関の担当者と日本人通訳者が迎えに行く。
・被招聘外国人と迎える者との連絡手段(携帯電話等)を確保する
等の対策も怠りなく整えておきたいものです。
何はともあれ、
在留資格認定証明書交付申請の段階で被招聘外国人の過去の犯罪歴の有無をリサーチするなどしてキッチリ仕事をやっておきたいものです。
尚、行政手続法上の聴聞において、行政書士は代理人となることができますが、入管法上の口頭審理においては、行政書士は、当該外国人の「知人」として立ち会うことが可能です。
特定行政書士が口頭審理で代理人を務めることについては、明文上の規定はないものの、”争いがある”とのこと。今後の行政書士会の動きを注視したいところです。
ちなみに、北海道行政書士会会員で、主な取扱いを「外国人関連」とし、かつ特定行政書士として名簿に掲載されている行政書士は10名とのことです。
次稿では、口頭審理の認定結果に異議を申し出た場合の流れをご紹介します。